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空き家を活用して新しい価値をつくる

旧東ドイツの都市ライプツィヒの空き家仲介NPO「ハウスハルテン」と空き家再生プロジェクト「日本の家」に学ぶ(空き家活用海外事例紹介)前編

人口減少、経済の停滞、空き家の増加、そして不動産価値は低下し、ますます人が住まなくなる。そうすると地域経済は衰退し空き家は増加し・・・という負のスパイラルへと転がり落ち、街はゴーストタウンへと。このようなバッドエンドを迎えないためにも「空き家対策はまちづくり」の視点を持って実際に行動していくことには大きな価値があります。

 

海外では空き家問題への取組はどうなっているのか?

 

面白い記事を見つけました。旧東ドイツの都市ライプツィヒは第二次世界大戦前までは産業都市としてベルリンに次ぐ人口を有する都市でしたが、戦後は東ドイツに組み込まれたことで産業が衰退、1989年のベルリンの壁崩壊でさらに産業は空洞化し人口減少と空き家問題が大きな社会的課題になりました。そんなライプツィヒでは空き家仲介NPO「ハウスハルテン」が空き家再生・活用をコーディネートし、空き家再生プロジェクト「日本の家」などの空き家再生・活用の実例をたくさん生み出しています。

「縮小都市」ライプツィヒに学ぶ「使用価値」視点の空き家再生 | 小さな組織の未来学

 

空き家をチャンスに!

 

「ピンチはチャンス」とはよく言ったもので、窮地に立たされたときこそ斬新なアイデアが生まれたり、思い切りの良い行動が取れたりするのかもしれません。人口減少と空き家の増加という「ピンチ」を”安価で自由に使える空き家・空き空間を調達できる”という「チャンス」に変えているのがこの記事の著者であり空き家再生プロジェクト「日本の家」の代表である大谷悠さんです。

 

「空き家」は都市の衰退を表す言葉としてネガティブに語られがちです。

しかし一方で、不動産価値が低下し安価に使える空間が生まれている状況は、新たな事業を立ち上げる人にとっての絶好のチャンスでもあります

「縮小都市」ライプツィヒに学ぶ「使用価値」視点の空き家再生 | 小さな組織の未来学

 

「縮小都市」ライプツィヒの人口減少と空き家増加事情

 

ライプティヒはワイマール共和国期の1930年代に人口70万人を超えていましたが、第二次大戦後から徐々に産業が衰退化していきます。そして冷戦終結・東西ドイツ統一により一気に人口が流出し現在は人口50万人にまで減少しました。

 

そして中心市街地では空き家率が50%超、ライプツィヒ市全体でも20%弱にのぼっていたそうです。こうした空き家はメンテナンスもされずに放置されていたため、見た目も中身もかなり老朽化が進んでいたようです。ライプツィヒはもはや成長期を終えた「縮小都市」としての都市戦略が課せられたということなのです。

 

空き家再生プロフェッショナル「ハウスハルテン」の立ち上げ

 

もはや衰退していく街では放置空き家をリノベーションしても、その投資を回収することは難しい。ならばいっそのこと放置空き家を解体し、緑地やオープンスペースにすればという考えもありましたが、放置空き家の多くは100年以上前に建設された歴史的に重要な建築物でした。古くから存在する建物はいわば都市のアイデンティティ。そのような建物(空き家)を再生するべく2004年秋に立ち上がった団体が「ハウスハルテン」です。

 

メンバーは地元の住民団体が中心ということで、地元で空き家問題や都市の衰退について問題意識をもっていた人たちの自由意志が発露です。

 

2004年秋、衰退にあえぐライプツィヒの一地区であったリンデナウで「ハウスハルテン」が設立されました。地元の住民団体「リンデナウ地区協会」のメンバーが中心となり、有志の市民、行政職員、建築家らが立ち上げに参加しました。

「縮小都市」ライプツィヒに学ぶ「使用価値」視点の空き家再生 | 小さな組織の未来学

 

「使用による保全」というコンセプトが最大の特徴

 

建物の維持・保全のためには放置するよりも誰かが使用することで劣化のスピードを遅くすることができます。ハウスハルテンは「使用による保全」をコンセプトとしているため通常の賃貸借契約のようなスタイルではありません。「使用貸借契約」という契約スタイルをとっていると思います。

 

「ハウスハルテン」の最大の特徴は、空間を誰かに使ってもらうことで最低限のメンテナンスをしてもらうという「使用による保全」をコンセプトとしていることです。2005年に始まった「家守の家」は、通常5~10年の期限付きで空き家の暫定利用を促す「ハウスハルテン」を代表するプログラムです。

所有者は、使用者に居てもらうことで建物の維持管理費を免れ、さらに自己負担なしで建物の最低限のメンテナンスと建物への破壊行為を未然に防ぐことができます。一方使用者である「家守」は、原則家賃負担なしで、自分たちの活動や生活に使える自由な空間を得ることができます。このように、「家守の家」は所有者と使用者の双方にメリットのあるプログラムなのです。

「縮小都市」ライプツィヒに学ぶ「使用価値」視点の空き家再生 | 小さな組織の未来学

 

ハウスハルテンという”空き家再生中間支援NPO”が空き家オーナーと空き家利用者とを仲介します。人と人や人とモノ、人と情報などを”つなげる”、”マッチング”する中間支援NPOの存在っていうのは大きな役割がありそうです。

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画像引用元)ハウスハルテンがコーディネートすることで空き家オーナーと空き家利用者(家守)とがwin-winの関係を構築。

 

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画像引用元)ハウスハルテンの空き家再生プロジェクト「家守の家(Wächterhaus)」の物件。

 

ハウスハルテンの収益構造はどうなっているのか?

 

どこのNPOでも資金調達は大きな課題です。ハウスハルテンは公益法人(登記社団)ということでですが、現在は空き家利用者が毎月払う「寄付金」によって独立採算で運営しているそうです。うーんやはりNPOと寄付金というのは親和性が高いというか、そもそも社会的課題解決のための活動なので完全に受益者負担という考え方は馴染まないのだと思います。だから寄付なりマルチに資金調達源を持つのがNPOの活動を支えます。

 

よくNPOの事業は「受益者負担が成立しない」事業であるといいます。

普通の事業・サービスであれば、受益者(例えば、マクドナルドだとハンバーガーを買い、食べる人)が料金を負担することが当然です。しかしNPOは社会的課題に事業・サービスを届けるので、負担してもらうことが難しいです。

だから寄付が必要なんです!

「社会を変える」お金の使い方~投票としての寄付 投資としての寄付 | NPO×キャリア×コミュニティ

 

ハウスハルテンが「空き家再生ライプツィヒモデル」に、そして他地域へ水平展開

 

ハウスハルテンの活動は着実に成果を挙げています。2012年末までにライプツィヒ市内で計60軒近くの空き家を再生してきました。そしてライプツィヒ市もハウスハルテンの活動を”都市再生戦略”に取り入れるなど行政側からNPOへと歩み寄り、空き家再生のアイデアと実行力を認めています。

 

現在はライプツィヒ以外の都市にもハウスハルテンと同様の取組が広がっています。多様化した社会的課題に対してフットワークの軽いNPOが真剣に取り組み、その成果を行政が取り入れ他都市に水平展開していくという流れはとても素晴らしい枠組みだと思います。

 

 参考図書はこちら。

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