マチノヨハク

空き家を活用して新しい価値をつくる

「自分の半径5メートル以内の世界を良くしていく」だけでずいぶんと社会は変わっていく

NPO(非営利組織)は「収益をあげてはいけない」組織ではない

 

乙武洋匡さんの最新刊「社会不満足」を読んでいます。駒崎弘樹さん、小室淑恵さん、堀潤さん、東浩紀さん、古市憲寿さん、開沼博さん、津田大介さん、家入一真さんといったそうそうたる面々との対談集です。宇野常寛さんの「静かなる革命へのブループリント: この国の未来をつくる7つの対話」と似ています。

 

中でも認定NPO法人フローレンスの駒崎弘樹さんとの対談内容について書きたくなったので書きます。「NPO」や「社会のために働く」とかそういった点がポイントですね。 

 

空き家活用なり空き家問題への取組って所有者やその家族だけだったり行政だけが動けば何とかなるものでもありません。アイデアや知識、労力、時間、資金を使ってコミットメントする人なり組織が必要になってきます。その急先鋒がNPOですね。行政はバックアップの役割。例えば、空き家再生の先進事例「尾道空き家再生プロジェクト」や京都市で空き家だった京町屋をセルフリノベーションしてアーティストの居住・制作・発表の場を提供する「HAPS」、空き家管理に取り組む「空家・空地管理センター」などはNPO法人という組織形態をとって活動しています。

 

で、よく誤解されるのが「NPOって、ボランティアでしょ」という指摘。「ノン・プロフィット・オーガニゼーション(非営利組織)」と、そのまま読むとお金を儲けない組織のように思えます。しかし、NPOはあくまでもさまざまな社会的課題を解決する組織なので、活動に必要な経費(人件費、家賃、利用料、光熱水費など)を賄っていかなければなりません。つまり当然に収益を挙げる必要があります

 

では「NPOと株式会社は何が違うのか」という指摘もあります。これは株式会社の本来的な存在意義が「株主利益の最大化」(利益を出し、株主に配当する)なのに対し、NPOはあくまで「社会的課題の解決」を目的としているため、利益は事業へと再投資されていきます。そもそも目的が違うのですね。ただ株式会社でも社会的課題解決につながっているケースは多々有るので、組織形態ではなくて組織理念や事業内容を個別に見て把握する必要がありますが。

 

日本に寄付文化はないのか?

 

NPOの資金源は事業収入だけってわけにはいかず、ニッチな社会的課題へアプローチしているために多様なチャネルを持っておく必要があります。そこで寄付ですね。寄付っていうと募金しかないものだと思っていました。ユニセフとか赤い羽とか。しかし今はクラウドファンディングや寄付金税制の優遇措置が拡充されたり(現在、見直しが検討されるなどしていますが)と以前よりも身近になってきています。東日本大震災後に一気に拡大したり。でも昔から「寄進」「勧進」、他にも「お布施」とか寄付文化は日本にもあったわけです。橋が寺子屋が必要だから町人が寄付を募る、ということが当たり前に行われていたんですね。つまり、日本にもともと寄付文化はある。明治維新後、近代化する過程の中でまたは戦後、高度経済成長する過程の中で忘れられてしまった文化と言えるのではないかと思います。

 

駒崎 一方でNPOは、たとえば人が集まっているところに村ができたとします。やっぱり子どもたちには読み書きを教えなければなりませんから、「学校をつくろう」ということになる。そこで、みんなが少しずつお金を出し合って、一つの学校ができる。これが、言ってみればNPOということです。

乙武 なるほど、いまでこそ学校や病院、消防署といった機関は税金によって運営されているけど、こうした統治システムがなかった時代には寄付を募り、いわばNPOのような形で運営していたわけだ。

駒崎 だから、「日本には寄付文化がない」とか言われるけど、あれウソなんですよ。日本には昔から寺社に対する寄進や勧進といった文化があったわけですから。寺子屋だってNPO。大阪には八百八橋と言われるぐらい多くの橋があるんですけど、そのうち幕府がつくった橋は12ぐらいしかなくて、あとはすべて町人の寄付によってつくられているんです。 

社会不満足 ―乙武洋匡 対談p29

 

「祭り」だって広い意味でNPOなんですね。

 

ナイチンゲールの実像

 

ナイチンゲールのことについてもふれられていました。「フローレンス」はここから取られたんですね。クリミア戦争に従軍したことで有名なナイチンゲールは戦場で献身的に看護しただけではないんですね。統計学者や社会起業家としての側面がありました。

 

駒崎 彼女は兵士の様子を統計によってデータ化し、陸軍に伝えたんです。「わが国の兵士たちは、銃弾によって亡くなる数よりも、疫病によって亡くなっている数のほうが圧倒的に多い。それは、兵舎の劣悪な衛生環境が影響しています」と。実際に兵舎の衛生環境を改善したら、死者の数が劇的に減少したんです。

乙武 それはすごい。

駒崎 それだけではありません。当時は医者の付き人のような存在だった看護師を、「もっとプロフェッショナルとして教育すれば医療のパフォーマンスは劇的に上がる」と訴えて、看護学校を創設した。彼女は看護師でもあり、統計学舎でもあり、社会起業家の原型みたいな人でもあるんですね。そんな彼女に少しでもあやかろうと、彼女のファーストネームであるフローレンスと名づけました。

社会不満足 ―乙武洋匡 対談p34

 

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ナイチンゲール。画像はWikipediaより。

 

ナイチンゲールは戦場で負傷した兵士たちをその都度その都度看護して終わりではなく、死亡する原因を統計データを用いて実証し、改善に向けた具体的なアクションを実社会に働きかけました。彼女の行動が公衆衛生や看護教育の走りになり、その後の保健医療業界の発展へとつながっています。

 

自分で実践し、それを誰もがわかるように説明し、「変える権限」を持つ人に働きかける

 

フローレンスの駒崎さんは病児保育に取り組むほか、待機児童解消のために空き家や空き室を活用した「小規模保育」や、長期間にわたって取引のない銀行口座の預金を貧困解消や被災地支援に活用しようという「休眠口座」にも積極的にコミットされています。自ら事業を立ち上げ、実績を作り、アイデアを政治家たちに売り込み政策にしてもらう、という社会的課題解決の発想や行動はナイチンゲールと重なります。

 

駒崎 自民党がダメだったから民主党に、民主党もダメだったから再び自民党に—何だか、「日本社会がうまくいかないのは、すべて政治のせいだ」みたいな風潮があるけど、僕は違うと思うんです。政治家というのは、あくまでわれわれの代行者であって、基本的なところは、身近なところは自分たちの手で変えていこうというのが僕のポリシーなんです。一人ひとりが「自分の半径5メートル以内の世界を良くしていく」だけで、ずいぶんと社会は変わっていく。そう信じています。

社会不満足 ―乙武洋匡 対談p36

 

自分の半径5メートル以内の世界を良くしていくだけで、ずいぶんと社会は変わっていく」これかっこいい言葉ですが、そんなに力まなくても身近な人や出来事に対してオープンな気持ちで接して自分のスキルや労力や時間や資金を少し提供する、サービスするってところからでいいと思います。

 

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