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空き家を活用して新しい価値をつくる

「上手くいったんじゃなくて上手くいかせ続けた」”カスタマイズ賃貸”の第一人者・青木純さん(リノベーションまちづくり塾@豊島区第3回レポートpart2)

まちの救世主になりたいか?

 

全3回に渡って開催された「リノベーションまちづくり塾@豊島区」のレポートもこれでラストです。前段の”リノベーションまちづくり”についてのお話はこちら。いよいよ本編は”カスタマイズ賃貸”の第一人者で大家として初めてTEDに出演された青木純さんのお話です。

 

大家の役割は「街の採用担当」「暮らしの舞台づくり」だと青木さん。つまり敷地だけではなくエリア、街に魅力的な人を集めて面白い賃貸住宅を住まい手と一緒につくり、街にとっても魅力的なコンテンツとして広がっていく、そのプロセスはまさに”街の活性化”につながります。大家さんは”まちの救世主”になれます。

 

青木 僕は大家業を「街の採用担当者」と呼んでいます。大家は街に人を呼び込む役割を担っていて、どんな人を呼び込むかもコンセプト次第でセグメントできる。だから、「どうやったらコミュニティを作れるか」ではなく、「コミュニティが生まれるような人をどうやって呼び込むか」「入居者同士がお互いを知り合うにはどうしたらいいか」を考えたほうがいい。そのために眠っている資産をどう使えば宝になるのかを考えると、街の課題解決に繋がるんです。それと、大家自身が楽しむことが大事。


青木純×嶋田洋平×長田昌之 街再生の新しい担い手たち | 月刊「事業構想」2014年10月号

 

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そして「世界が大家に注目している」ともおっしゃいます。TED×TOKYO2014でスピーチをした青木さん。オーディエンスの8割は外国人。日本語でスピーチした青木さんの言葉は翻訳されてオーディエンスの耳に届きます。スピーチ終了後にはスタンディングオベーションとその日のプレゼンテンターで最も反響のあったスピーチに選ばれるなど”大家”に世界が注目しています。ニューヨークタイムズにも掲載されるくらいです。

 

片手間で出来ると思っていた賃貸住宅経営、そして東日本大震災

 

2011年1月に祖父の代から続く賃貸マンション「ロイヤルアネックス」の大家さんになった青木さん。青木さんもおっしゃるように当時は無個性な一般的な賃貸マンションでした。

  

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もともと中古住宅の仲介やHOME'Sのサイト運営などの仕事をされてきた青木さん。賃貸経営は片手間で出来ると思っていましたが2011年3月、東日本大震災の影響で空室が続出します。そこで新たな価値を提供しないといけないと考えます。

 

そして、中古住宅の仲介の仕事の中で”なぜ白い壁紙ばかりなのか”疑問に思っていたそうです。そして2011年5月に壁紙を入居者が選べるサービスを始めますが最初は全く上手くいかなかったそうです。入居者の頭には壁は白いもの、ましてや賃貸なのだから選ぶなんて発想がそもそも無かったわけです。

 

青木:2011年の震災の後に、5月に壁紙のサービスを始めたんです、新しい入居者向けに。震災があって空室が増えたってこともあったんです。海外から来ている人は帰っちゃったりとか、社宅で家賃補助で入った人たちが、順にそういうふうにいかなくなってきちゃったりとか。震災きっかけです。震災の前に派遣法が変わって、派遣社員が軒並み出て行っちゃったというのもあったんですが。それが繁忙期のタイミングで震災があって、空室がふくらんじゃって、当時27%までいったんです。やばいですよね。10年後に来るであろう空室状況を一気に味わっちゃったんです。これはやべー、と思って。継いですぐです。2011年の1月に継いでいましたから、もう継ぐんじゃなかったですよ~。すごいタイミングでした。震災あってボロボロで、仮住まいとかにもタダで提供もしました。それができるくらい部屋に余裕がありまくったんですね。そこでどうしよう、というので、原体験である壁紙の楽しさみたいなのを持ち込んじゃったら、なんか楽しいんじゃないかなと。

インタビュー / INERVIEW | CULTURESTUDIES/カルチャースタディーズ研究所

 

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「白がいいです」ではなくて「白でいいです」だった

 

壁紙サービスを始めて2ヶ月くらいして駅前の大手不動産会社から電話があってようやく申し込みがあります。壁紙はどうしますか?と聞くと「白がいいです」という答え。

 

二か月くらいしてやっと申込みが入ったんです、駅前の大手さんから。どうしますか壁紙、って言ったら、白がいいです、って言うんですよ。それで、家賃を下げるから壁紙を選ぶ時間をしっかりとって、選んだらうちのHPでアピールさせてくれないか、体験談みたいなことで、モニター契約で家賃を下げるからお願いします、と頼み込んだ。女の子だったんで顔出しはNGだったんですが、じゃあ、それでやりましょう、ということになって、不動産会社が立ち会わないで、僕が直接お客さんと会わせてもらって。

インタビュー / INERVIEW | CULTURESTUDIES/カルチャースタディーズ研究所

 

でもよくよく入居希望者の女性と話をすると”壁紙の色を選べる”なんて発想がないから「白でいい」と答えたということがわかります。決して「白がいい」わけではないのです。

 

白がいいと言うから、まずは白を見せたんです。白でもクリーム色も含めてサンプルたくさんあるじゃないですか。いろんなテクスチャーがあって。全部見せたら、白だけでこんなにあるんですか、って目が輝きはじめたんです。何で白がいいと言ったんですか、と聞いたら、白がいいです、とは言っていない。白でいいです、と言ったんです、と。不動産屋さんに確認されて、白でいいです、と一言言っただけで、こんなにたくさん選べると思わなかったから、と。それでその子と話をしていくと、好きな色がだんだんわかってきて、提案して、結局選んでもらって入ってもらったんです。

インタビュー / INERVIEW | CULTURESTUDIES/カルチャースタディーズ研究所

 

入居希望者とヒアリングしながら、週末に公園に行くのが好きなことを聞き出し、ならばと若草色を提案した青木さん。テシードという高価な壁紙を使うなど「上手くいったんじゃなくて上手くいかせ続けた」んだと青木さん。入居者の希望やニーズを聞き出し、一緒に考えるなんてこれまでの大家さん像ではあり得ないでしょう。

 

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派手な色を勧める

 

入居者と一緒にコミュニケーションをとって壁紙選びをする中で、あえて派手な色を勧めるそうです。そうすることで入居者が思い切り楽しめる部屋作りを後押ししています。

 

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次は床と天井

 

壁の次は床と天井です。床は無垢材(間伐材)を置くだけです。軽くて1枚千円代だそうです。tool boxで販売しています。

 

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床張りの共同作業で住民コミュニティが自然発生

 

前住民が床張り作業を手伝っています。自然と住民同士のコミュニケーションが生まれます。

 

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友達もたくさん訪れる、そして入居希望者も

 

これだけ時間と手間と気持ちを注いでつくった部屋作りですから当然、身近な友達を呼びたくなります。その友達が部屋を見て魅力的に感じて新しい入居希望者になるというケースもあります。

 

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時間単位で貸し出す

 

PLUS+」という部屋はマンション住民はもちろん、マンション外の人も利用できる用途自由な”みんなのリビング”です。10月のハロウィン、12月のクリスマスの時期はイベントやパーティー会場として利用者は増えるそうです。

 

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後半は目白ホワイトマンションのオーナーさん、入居者、都電家守舎(嶋田洋平さん)によるトークセッション

 

後半は消滅可能性都市を超絶可能性都市に変えると宣言する嶋田洋平さんとカスタマイズ賃貸を行った目白ホワイトマンションのオーナーさん、入居者、そして青木さんの4人によるトークセッションが行われました。築45年の目白ホワイトマンションは13部屋中6部屋が空室でした。

  

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”Z案件”と呼ばれる後回しにされてきた物件こそ自由にリノベーションできるのが魅力です。A物件はすでに投資しているので手がつけられません。お客さんが変わったならばターゲットを変えるしかない、と改装OK・原状回復不要へと舵を切ります。

 

当初は薄暗い2間の和室。所有者の家族である浅原賢一さん(49)によると、昭和40年代にできてから、ほとんど手を入れてこなかった。

「でも『いじりがいがある』って逆にテンションがあがった」(竹沢さん)。入居を即決し、3月上旬から週末などを活用して友人らと部屋の改装作業を進めた。


「カスタマイズ賃貸」満室 床も壁も自分好みに :日本経済新聞

 

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2015年の住まいのトレンドは「リノベパーティ」ですが、まさにこの目白ホワイトマンションの事例がそのまま使われています。

 

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オーナー、家守、入居者のそれぞれが改装費用を分担

 

とても重要な改装費用についてですが、これはオーナー、家守、入居者がそれぞれ分担することで数年でそれぞれが投資回収できるような仕組みをつくりました。

 

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