今回は中川寛子さんの「解決!空き家問題(ちくま新書)」の読書メモの第5回目です。過去記事はこちら。「第1章 いずれは3軒に1軒が空き家?ー現状と発生のメカニズム」(p.47-57)をまとめます。
登記情報と所有者情報、納税情報がバラバラ
前回ご紹介したように、親から子へ、孫から子へ空き家を相続するときは、所有権移転登記は任意であるため、空き家の所有者がわからない事態が起きています。所有者でなくても、固定資産税などの税金を払ってくれていれば、行政的にはそれで構わないというスタンスですが、必ずしも所有者以外の人が税金を払ってくれるわけではありません。その場合、任意である登記制度をベースに、義務である納税を載せる制度自体がおかしいと指摘しています。ただし、登記制度のアップデートするためには、国側が主体的にならない限り、動きそうにないのが実情です。
ただ、登記制度に踏み込むとなると、民法の所有権や、憲法の財産権までが議論の対象となり、制度改正の必要性やその効果が平時は実感されにくいことも考えると、見直しの機運を高めるのは容易ではない。ここでも国の無策が損失を生んでいるわけである。
相続放棄が毎年増加傾向、相続放棄後の不動産の行方があいまい
空き家を相続したくない場合は、相続放棄という手段があります。その場合、空き家は所有者がいない状態になります。民法239条2項では、所有者のいない不動産は国庫に帰属すると規定されています。つまり、相続放棄された空き家は、名目上では国のものという扱いになります。しかしそもそも、相続放棄をした人がその旨を国に報告する義務は実はないのです。そして家庭裁判所でも、相続放棄を決定した後、その結果を他の省庁などに連絡する義務はないそうです。これはなんともちぐはぐで、せっかくの不動産という財産を全く有効活用できていないということです。
相続放棄が増えている現在、その情報が共有されていないことによる無駄はどんどん積みあがる。土地情報もそうだったが、連携していれば簡単な確認で済む情報がすべてスタンドアローンになっており、まったく別物として担当部署の中に死蔵されているのである。
マンション建て替えへの高いハードル
マンションの大規模修繕や建て替えは当然、マンション住人の意思で決めることですが、ここでも所有者不明の問題があります。そこに住んでいるのが元からの居住者なのか、相続後に賃貸された部屋に住んでいる賃借人なのかも分からない状態のケースもあるそうで、管理組合が作る名簿も届け出る義務はないので、所有者不明な部屋もあるのです。所有者がわからなければ決議ができないのはもちろん、そもそも総会の成立も危ういです。
全国にあるマンションは約613万戸。そのうち、新耐震基準以前の建物も106万戸あります。しかしマンション建て替えはたった230件ほど(2014年4月時点)。
建替えは合意形成が難しい上、容積率の余剰がないと工事費の負担が必要になる。余剰があっても郊外で売れそうにない場所では費用が賄えないなどの問題に加え、築後に既存不適格になってしまっていたなど、種々の障害が立ちはだかる。
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(次回につづく)