マチノヨハク

空き家を活用して新しい価値をつくる

スポンジ化する都市で目的を持ってまちづくりをするには

前回記事に引き続き、首都大学東京准教授の饗庭伸先生の講演「人口減少時代の都市計画と空き家対策」の内容後半をまとめます。5つの項目のうち、

  1. 人口減少時代をどうとらえればよいか
  2. 人口をどう捉えるか
  3. 都市の空間はどう変化するか
  4. 空き家を使って何が出来るか
  5. 空き家政策へのコメント

の、4.空き家を使って何が出来るか、からです。

都市はじわじわとしか変わらない

これまでどんどん市街化が拡大してきたわけですが、人口減少していく中で、道路や上下水道、病院や学校などの公共インフラの維持コストが膨大にかかります。そこで国土交通省ではコンパクトシティを目指し、2014年8月に都市再生特別措置法の一部改正法により立地適正化計画という新しい仕組みを設けるなど、取り組みを進めています。

しかし、土地所有者が多く、土地が細分化されており、土地や建物を売却したり解体したりする意思決定にいたるまでの説明や交渉に多大なコストがかかります。税収も減っていく中で、区画整理や再開発といった公的補助金をコンパクト化に投入するのもなかなか無理がある。つまり、都市はじわじわとしか変わらないのです。都市の縮小は、都市の大きさはさほど変わらず、ランダムにスポンジの穴が空くようにポツポツと空洞化していく。そうした構造に適応するという発想がまず大事です。

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(画像引用元:スポンジ化についての話題提供スライド: 都市をたたむ技術

空き家活用・再生の実践(やぼろじ)

国立市谷保の甲州街道沿いにある約360坪の大きな敷地には、築50年の母屋、離れ、庭、井戸小屋、蔵、畑があります。10年以上空き家でしたが2010年6月、「谷保の家再生プロジェクト」がスタートし、現在は「やぼろじ」としてカフェ、工房、ガーデン、デザイナーや建築家、書店・ギャラリーが入居するなど、まちの魅力的なコンテンツに生まれ変わっています。

(過去記事参照:空き家だった古民家をカフェ、工房、ガーデン、オフィスを持つ複合的なコミュニティスペースへ!「やぼろじ」(空き家活用事例紹介) - 空き家グッド

この日はやぼろじの空き家活用・再生にいたったお話が面白かったです。空き家オーナーのことは知らず、いきなり尋ねても絶対怪しまれると思ったと饗庭先生。しかし、知り合いの知り合いの知り合いだったそうで、知りあいづてに空き家活用・再生の提案を考えさせてくださいと、お願いした結果、了承されます。

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(画像引用元:スポンジ化についての話題提供スライド: 都市をたたむ技術

そして、自分たちのためではなく、みんながこの場所を使いたいということをアピールしていったそうです。空き家オーナーとしても、みんなのためなら貸してもいいかなと思いやすいのだと思います。饗庭先生たちは知りあいをかき集めてワークショップを開くなどして使い方のイメージを出し合い、計画を立てていきます。

印象的だったのは「ブロック塀を取るだけでも都市が良くなった」というお話です。もともと塀に囲まれていたわけですが、塀をとるだけで空間が広くなり、公園が出来たような感じになるわけです。

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オープンスペースが広がると、まちの魅力につながります。

税金を使わず(行政に頼らず)、友達の友達といった「人のつながり」と「余っている建物」を使った空き家活用・再生プロジェクトです。スポンジ化する都市において、こういった取り組みが各地で広がることが、持続可能なまちづくりのために重要です。

空き家活用・再生をまちに点在させる(鶴岡の空き家を活用したまちづくり計画)

やぼろじ以外にも、山形県鶴岡市で空き家を活用したまちづくり計画の作成やワークショップを行っています。鶴岡市は人口約13万人、約2,000戸の空き家があります。空き家になった場合、売ろうとしても買い手がつかず、行政に寄付が持ち込まれる状況だそうです。それでは寄付される空き家を使って豊かな都市空間を実現するためにどうすれば良いか、現場を歩いて調査したり、空き家活用のアイデア出しを行うなどしました。ただ、あまり良いアイデアは出てこなかったそうで、空き家を使ってまちをどう面白くしていくか、楽しいまちにしていくには、という発想がとても重要というお話は以前にもお聞きしました。

(過去記事参照:空き家活用は”楽しくやること”が大事(首都大学東京饗庭伸先生のお話) - 空き家グッド

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空き家を使うというのは、空き家を除却してその空いたスペースにより歩きやすい歩道をつくったり、道路を拡張させたり、雪置き場を設けたり、地域のニーズに応じた使い方があります。

都市計画の4種類の方法

最後5.空き家政策へのコメント、では最近、国土交通省で立ち上がった都市計画基本問題小委員会での議論のお話や都市計画の方法などのお話がありました。都市計画の4種類の方法は、

  1. 都市開発事業:公共と民間で開発する
  2. 都市施設:道路や公園を公共事業でつくる
  3. 土地利用規制をかけて民間の動きを誘導する
  4. 課税する

だそうです。やはり、地権者の意思決定で具体的に土地や建物は変化していくので、行政が公共インフラをつくりつつも、民間による動きを誘導・促進していくための政策が重要だと思いました。加えて、コンパクトシティよろしく中心市街地に都市機能を集約させていくことだけでなく、点在する空き家や空き地を活用・再生させること、それが人口減少期におけるまちづくりでは重要です。

都市をたたむ 人口減少時代をデザインする都市計画

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