マチノヨハク

空き家を活用して新しい価値をつくる

立地適正化計画の矛盾

今年6月18日に起きた大阪府北部地震、6月下旬から7月上旬に起きた平成30年7月豪雨、9月4日に日本に上陸した平成30年台風21号、9月6日に発生した平成30年北海道胆振東部地震、立て続けに甚大な被害をもたらした自然災害が発生しています。地震、豪雨、暴風、高波、浸水、土砂災害など今までに無かったようなレベルの威力を各種報道から感じています。義援金の他ふるさと納税の仕組みを使って返礼品なしで被災地に寄付が可能です。またヤフーや楽天、LINEで募金を受け付けています

立地適正化計画はコンパクトシティを形成できるのか? 

こちらの記事でも触れた通り、日本で空き家が増え続けている背景には「新築」「持ち家」を手厚く支援してきた住宅政策と無秩序かつ無計画な居住地拡大を許してきた都市計画コンパクトシティの大きく2つが挙げられます。後者の問題に対する解決策の一つとして、市街地の拡大を抑制し都市機能や居住地を中心市街地に集約して人口密度の高い街であるコンパクトシティの形成を目指すための自治体が策定する計画である立地適正化計画があります。2018年5月1日現在161都市が計画を作成・公表しています

立地適正化計画は、都市計画とは逆に人口減少を前提とし、時間をかけて居住エリアと都市機能を集約することで都市をスリム化しようという発想である。移転誘導の難しさやコスト面から、性急なコンパクト化を求めず、無理のない範囲で住民や都市機能を誘導しようとするのは妥当な判断といえる。新たな郊外開発に大義名分を与える危険性があるため、開発区域を従前より制限できれば、市街地の拡大に歯止めをかけることができる。

〝膨張〟するコンパクトシティに歯止めを WEDGE Infinity(ウェッジ)

しかし、日経新聞が2017年末までに計画を作った116市町に進捗を問う調査を行ったところ、誘導区域外で開発届けがあったのは全体の56%に当たる65市町で計1098件。そのうち32市町、つまり58%は何も手を打たなかったと回答しています。熊本市では適当な土地がなかったと都市機能誘導区域外に熊本地震で被災した市民病院を移転されている他、水戸市でも福祉施設や保育所などの郊外開発を黙認、強制力のない勧告という手段を作ったのはたった1件だけです。挙げ句の果てには本来は法的に都市開発を厳しく制限する市街化調整区域においても立地適正化計画をもつ自治体の3割の34市町が規制を緩めているのです。

www.nikkei.com

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(出典:コンパクトシティーに逆行 周辺開発、自治体が黙認 :日本経済新聞

憲法22条の居住移転の自由や29条の財産権の規定などから一定のエリアに居住を強制したり、立ち退かせたりすることは非常に難しいです。しかし、財産権の方にスポットを当てるならば絶対的所有権という日本人の土地概念が所有者不明土地を生み出していることはあちこちで議論されており、今後少しずつ現代の人口構造や社会の実相に合わせた形に、財産権の中でも特に不動産所有権は相対的なもの、利用を促すもの、公共的なものという捉え方に移っていく兆しを感じます。具体的には登記制度・土地所有権の在り方等に関する研究会で議論されています。

www.fujitsu.com

www.nhk.or.jp

ohishi.doboku-ch.jp

1m以上の浸水想定区域の一部が居住誘導区域になっている自治体が89%

また日経新聞の別の調査では、居住誘導区域を今年3月末までに発表した人口10万人以上の54市を対象に、調査票や聞き取りを通じて浸水想定区域との重なり具合を調べたところ、全体の89%となる48市で1m以上の浸水想定区域の一部が居住誘導区域となっていました。1m以上というと床上浸水するレベルです。洪水リスクの事前周知や避難体制の整備などの防災対策をしっかりすれば浸水リスクは減らせるという論理ですが、そもそもそんな想定通り行くのか疑問です。行政内部の都市計画セクションと防災セクションとが縦割りとなっていて十分に連携、すり合わせできていない実情もあり不安が残ります。

多くの自治体は防災対策を施せば浸水リスクを軽減できると主張する。だが、立地適正化計画をつくる段階で、都市整備と防災の部署がどこまで細部を擦り合わせたか。東日本のある自治体の防災担当は「居住誘導区域の詳細が分からない」と回答。都市整備担当も浸水想定区域との重複度合いについて「細かく把握していない」という。

浸水想定域に住宅誘導 まち集約の自治体9割で 防災後手、計画の再点検を :日本経済新聞

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(出典:浸水想定域に住宅誘導 まち集約の自治体9割で 防災後手、計画の再点検を :日本経済新聞

自然災害の想定外の脅威を謙虚に受け止め住民を守る

最近の自然災害は特に想定外を超え住民生活に甚大な被害をもたらしています。防災対策をすれば、たとえ浸水想定区域でも居住誘導区域に指定しても問題ないという考え方もあります。しかし、事前に想定外を想定しておくことが危機管理上は重要です。住民の生命や身体、財産を守るべき自治体ならばなおのことでしょう。と言っても、既に居住地が形成されているエリアの住民を強制的に移住させるのは多大なコストと手間がかかり現実的に困難であるため、まずは諸々の自然災害のリスクをエリアごとに分析し、人が住めるエリアなのかそうではないのか見極め、それを情報発信していく、誘導区域の見直しに加え、特にそのエリアに住民が自然災害のリスクを自覚することが重要です。

「居住誘導区域内の浸水想定を詳細に分析すべきだ」と訴えるのは土木工学に詳しい日本大学の大沢昌玄教授だ。リスクの度合いに応じて防災対策の優先順位を決めやすくなるという。そのうえでリスクが高い地域については「誘導区域からできるだけ除外したほうがいい」と強調する。 

浸水想定域に住宅誘導 まち集約の自治体9割で 防災後手、計画の再点検を :日本経済新聞

とりあえずハザードマップは見ておきたい

ご自身が住んでいるなど気になるエリアで自然災害が起こった場合の影響はどんな感じなのかを調べるにはハザードマップが役立ちます。こちらは国土交通省のポータルサイトで、各市町村で発信しているハザードマップを簡単に選択することが出来ます。

f:id:cbwinwin123:20180910094404p:plain(出典:国土交通省ハザードマップポータルサイト