マチノヨハク

空き家を活用して新しい価値をつくる

家主の遺志を受け継いだ空き家を再生!「岡さんのいえ TOMO」の今とこれから

4月26日(水)、この日は京王線・上北沢より徒歩5分の場所にある「岡さんのいえ TOMO」へ行ってきました。この場所は空き家活用と言おうがなんと言おうがどっちでもいいのですが、戦後まもなくに建てられた築70年の住宅が、当時の家主の意志を受け継いで素敵に使われています。今回はその一端をご紹介します。

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「岡さんのいえ TOMO」の外観。そろばん教室、水彩クラブ、つながる居場所”たからばこ”などなど、地域の老若男女にとって様々な活動の拠点になっています。

まちの子どもたちに英語とピアノを教える

築70年の昭和レトロな木造二階建てには元々、岡ちとせさんという明治40年生まれの女性が暮らしていました。岡さんは仙台市で生まれ、身近にクリスチャンが多かったためか小さい頃からクリスチャン。近所にあった教会に熱心に通っていたそうです。学生時代は主に英語を勉強され、卒業後は15年間秋田県の女学校で英語教師を務められました。その後上京、共に暮らすことになる諌山イ子さんとの出会い、四谷のバプテスト女子学寮で寮母さんとして勤務、戦後は英語を活かして外務省で働くなどを経て、昭和24年に世田谷区上北沢に転居。諌山さんが英語とピアノをまちの子どもたちに教え、岡さんも休日には英語を教えたり、聖書を読んであげたりしました。外務省退職後も昭和50年頃まで諌山さんと二人三脚で英語・ピアノ教室を営み、まちの子どもたちの成長を見守り続けてきました。

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(画像引用元:岡さんのいえとは | 岡さんのいえ TOMO)こちらは1950年頃に現「岡さんのいえ」の前で撮られた写真。近隣の松沢教会で開かれたクリスマス会に参加したときの様子だそうです。

受け継がれる岡さんの遺志

そんな諌山さんと岡さんが暮らし、まちの子どもたちとの楽しい思い出が詰まった家ですが、2006年に二人が亡くなり空き家となります。未婚で実子もいなかった岡さん。2000年頃から介護を引き受けたのが親族の小池良実さんです(岡さんは大叔母さんに当たるそう)。「この家を私のこどもだと思って、地域やこどもたちに役立てて」という岡さんの遺志を受け継いだ小池さんは、もう一度この場所を子どもたちの声が響く家にしたいと突き動かされ、空き家を再生する決心をされたのが2007年。

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岡さんのいえ7年目のときに作られた冊子「私有空間 たから箱」より画像引用。

一般財団法人世田谷トラストまちづくりとの連携

そして2007年7月、一般財団法人世田谷トラストまちづくりが音頭を取っている「地域共生のいえ」という取り組みに参加されます(「地域共生のいえ」とは、オーナーの意志により地域に開かれ、公益的で非営利なまちづくり活動や地域の絆を育む活用がなされている、世田谷区内の私有の建物)。さらに2007年8月、一般財団法人世田谷トラストまちづくり大学(以下、まちづくり大学)の受講生が大挙して見学に。「とにかく定期的に何かやろう」と受講生のアドバイスでカフェがスタート、岡さんのいえ第2章がスタートしました。スタートから10年来、岡さんのいえの運営に携わって来られたスタッフの小塚秀忠さんもまちづくり大学の受講生。大手ディスプレイデザイン会社に勤められていたデザイナーさんで、小塚さんの作成する広報誌はどれも味のある素敵なデザインです。

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岡さんのいえ新聞コレクション。

多彩なイベントが開催

今回お邪魔した日は下高井戸にキャンパスがある日本大学文理学部の大学生が主催している中高生の居場所づくり、つながる居場所”たからばこ”の日でした。地元の小・中学生の勉強を大学生が見たり、相談に乗ったり、一緒に遊んでいました。他にも水彩クラブ、鉄ちゃんクラブ、囲碁クラブ、駄菓子屋など、様々なイベントが定期開催されています(詳しくは岡さんのいえのご利用案内へ)。

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ボードゲームをして遊んでいる様子。

クラウドファンディングを活用して耐震改修工事を実施

2015年にはクラウドファンディングを活用して耐震改修工事を実施しました。屋外に頑丈なたすき掛けの筋交いを設置したり、クラウドファンディングの支援者の名前が書かれたスケルトン耐震壁を設置、梁の補強など。

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こちらがスケルトンの耐震壁。よく見てみると…

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クラウドファンディングの支援者のお名前がずらり。

高校家庭科の教科書に掲載される

そして岡さんのいえは高校の家庭科の教科書にも掲載されました。地域福祉の事例として取り上げられています。「地域」「多世代交流」「居場所」など、最近の地域福祉で謳われていることの実践現場として名実ともに認められている証拠です。

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この教科書で学んだ高校生が岡さんのいえの運営など、なにかしら関わったりするのかも。

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コミュニティサロン活動など、物理的に対面ができるというのは地域福祉にとって重要です。画像は小池良実さんのFacebookから拝借させていただきました。

岡さんのいえの今とこれから

東日本大震災以降、テレビ局や新聞などのマスメディア、視察や講演、大学からのインターン受け入れなど、どっと増えてきたそう。地域コミュニティの復活だとか、空き家再生の先進事例だとか、絆の再構築とか、メディア受け、研究受けするフレーズがたくさん転がっている岡さんのいえ。ですが実際に10年続けてこられ、耐震改修工事という投資も行っている中、今後の10年、それから先の未来をどう描くが重要です。新規イベントへの参加者集め、組織の新陳代謝、まちのお茶の間というコンセプトのアップデートなどなど、岡さんのいえは今まさに第3章へと向かうためのターニングポイントにあるのかもしれません。

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岡さんのいえのピアノ。こうした岡さんが使っていた物が所々に残っていて、岡さんの面影が常に感じられます。

岡さんのいえ TOMO | まちのお茶の間、開いています。

(参考記事)
区のおしらせ「せたがや」平成28年4月1日号
みんなで受け継いでいくまちのお茶の間 ~地域共生のいえ『岡さんのいえTOMO』~ | ROOMBLOOM