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空き家を活用して新しい価値をつくる

木造住宅の可能性

強制撤去が進む危険な老朽空き家

 

昨今、近隣に実害を及ぼすような危険な老朽空き家の強制撤去というのがニュースになっています。2012年3月に秋田県大仙市で全国初となる空き家の強制撤去を皮切りに、東京都内でも今年5月に大田区で、12月には墨田区で危険な老朽空き家が強制撤去されました。自治体の立入調査権限などを強化した空き家対策特別措置法が来年6月頃までには施行となり、一層空き家対策に本腰になっていきそうなのでこういった強制撤去の件数も増えてくることが予想されます。

 

撤去された空き家はいずれも築40年とか50年です。つまり1960年代〜70年代に建てられた木造住宅です。この時期は高度経済成長に至る急速な近代化の真っ只中でした。しかし現在の社会経済は低成長、長引くデフレ、人口減少と高度成長期とは正反対の状況です。これまでの”とにかく作る”といった感覚から”今あるモノをどう活かすか”または”限りある資源をどう組み合わせて新しい価値を生み出すか”が求められています。

 

木造住宅の可能性

 

強制撤去は最後の手段です。本来は対話があって双方の妥協点を探っていくべきなんでしょう。そこでよりクリエイティブな活用法も見えてくるかもしれません。リノベーション事業の老舗・ブルースタジオ大島芳彦さんらが手掛けた「うおまちのにわ 三木屋」は廃屋寸前だった木造住宅をまちのみんなが使うレンタルスペースとして生まれ変わりました。

 

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まちのみんなが使うレンタルスペース「うおまちのにわ 三木屋」。パーティーやギャラリースペースなどのほか、落語や演劇、ミニコンサートなどでも利用され、周辺の知名度も飛躍的に高まり、2014年5月にはオーナーさんご自身が運営する「三木屋カフェ」がオープン。

 

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BEFORE。リノベーション前は文字通り廃屋寸前な状態。

画像引用元:greenz.jp

 

廃屋寸前の木造空き家は大きな可能性を秘めています。

 

「日常の価値」を受け継ぐリノベーション

 

大島さんはリノベーションを手掛けるにあたって「『日常の価値』をどう受け継ぐか」を大切にされています。日常の中にある生活や文化といった当たり前のものにこそ実は凄い価値がある。

 

僕が大切にしたいと考えているのは、「日常」をどう受け継ぐかということなんです。我が国では文化財の“保存”“修復”はお家芸みたいなもので、技術も非常に高いんですね。

一方で、あたりまえの「日常」を生活しながら誇りを持って使い継ぐメンタリティが希薄。これは欧米と比べて非常に劣る部分です。

文化財だけでなく、日常生活に対する誇りを持たないとそもそもの生活文化は潰えてしまうのです。

廃屋寸前の民家を、まちのみんなが使うレンタルスペースに。「うおまちのにわ 三木屋」を手掛けたブルースタジオ大島芳彦さんに聞く「これからの豊かさのつくりかた」 | greenz.jp グリーンズ

 

所有者の方も気づいていないような木造住宅の魅力を再発見し再編集することがポイントです。

 

スクラップアンドビルドからは卒業しよう

 

そして重要な視点としてスクラップアンドビルドの発想と手法からは卒業して、既存のモノを再評価して活用していくという発想と手法にアップデートしていかないといけません。そのことを大島さんも指摘しています。

 

明治以降昭和高度経済成長に至る急速な近代化は、過去と日常を野蛮なものとして切り捨てようとする傾向が強くなってしまいました。戦後は顕著です。

特に小さくとも持ち家を推奨する住宅政策。財閥解体や農地解放も影響しているけど、日本の文化を解体してしまうような政策が次々ととられた。

日本の住宅政策でいちばん文化を解体することになったのは、土地所有の細分化とスクラップアンドビルドの新築至上主義をつくりあげてしまったこと、それから、建物を評価する仕組みをつくらなかったことだと思います。

廃屋寸前の民家を、まちのみんなが使うレンタルスペースに。「うおまちのにわ 三木屋」を手掛けたブルースタジオ大島芳彦さんに聞く「これからの豊かさのつくりかた」 | greenz.jp グリーンズ

 

住宅は”資産”としてではなく”耐久消費財”のような扱いをされ、いくら投資をしても価値に反映されてこなかった、ということが大きな問題です。住宅を買ったとたんに価値が下がり始め、10年で半値、25年程度でほぼゼロになるという”定説”はあまりにも酷です(住宅買うというストレスが大きすぎます)。

(036)「空き家」が蝕む日本 (ポプラ新書)

(036)「空き家」が蝕む日本 (ポプラ新書)

 

 

経年的な劣化や不具合に対しては点検やメンテナンスをしっかりやったり、改修などのバリューアップをしたら資産価値として算定されるなど中古住宅の評価の仕組みの構築が急がれます(中古住宅市場活性化ラウンドテーブルで議論がなされているようです)。

 

住宅政策は産業振興や景気対策ではない

 

更地には高い税率を課し住宅や建物をとにかく建てさせるという、無意味で利己主義的な”ハコ”が乱立すると本来の住宅や建物の必要性やまちづくりの視点などは存在しなくなります。

 

税制もそうです。更地のままでは高い税率を課せられますから、とにかく何か建てなくちゃと、無意味で利己主義的な箱がどんどん建っていく。そこには本来の必要性や、街づくりという俯瞰した目線など存在しないですね。産業振興、景気対策として建てさせているんですから。

ヨーロッパでは、貴族や古い豪農なんかが文化の継承者。彼らは行政とは違う立場で街の価値を考えるし、制度的にも哲学的にも生活文化の継承に対する義務を負っていたりします。

廃屋寸前の民家を、まちのみんなが使うレンタルスペースに。「うおまちのにわ 三木屋」を手掛けたブルースタジオ大島芳彦さんに聞く「これからの豊かさのつくりかた」 | greenz.jp グリーンズ

 

単純に考えて空き家が発生する大きな要因の一つは新築住宅を作りすぎなことです。なぜ空き家が発生してても新築住宅を作り続けるのか、理由は「景気対策」です。冒頭に書いた通り、税金使って空き家を強制撤去している時代に入ってきているのに、です。住宅ローン減税の期限が 平成29年末までから1年半延長されるというニュースもあります。住宅政策は経済対策と遮断することはできないものでしょうか。

 

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